これまで多くの中高生から「〜〜という曲の指揮の動画をアップしてほしい」と言われてきましたが、正直なところ知らない曲や楽譜を持っていない曲が多すぎて、全く対応が追いついておりません。
ところで、私は指揮を専門にしているわけではないのですが、楽譜を見れば指揮を振るポイントが大体わかります。それは私が日頃から作曲をしているというのもありますが、それと同じくらい「その曲ならではの特徴」を見極めることができるからだと思っています。
ですので今回は、曲の特徴を見極め「作曲家の視点から、指揮を振るために役立つ楽曲分析の方法」をまとめたいと思います。僕の動画を見るだけで指揮をするよりは100倍いい指揮になると思いますが、かなり大変だと思います。
あわせて歌う人たちに向けたアドバイスなども書くつもりなので、友達にはこの記事の存在は内緒にしておいた方がいいかもしれません(100%完成したらこの記事は有料か限定公開にする予定です…)。
分析を始める前に
①基本的な指揮はちゃんと練習しておく
演奏する曲の拍子とテンポがどうなっているかはきちんと確認しましょう。よくある拍子は4/4や6/8だと思いますが、6/8の場合はテンポによって2つの振り方があります。
早い場合は2拍振る方法、遅いテンポの場合は6拍振る方法ですが、6拍振る方はちゃんと練習しないと何を振っているのか分からなくなる可能性があります。
指揮を安定させて振るために、メトロノームを使った練習も大変有効です。アプリはもちろん、Googleで検索するとブラウザ上でもメトロノームを使うことができます。
合わせて、拍子やテンポが変わる部分も楽譜で確認しておきましょう。
この後の話は分からないところを何とかする方法ではなく、分かっているところをさらに分かるようにする方法です。
②目立つための余計なことはしない
創意工夫を凝らして、分からないなりに指揮をするのはいい試みだと思います。ただ、あくまでも指揮は歌のために振ったほうがいいので、自分をカッコよく見せたいとか、目立ちたいとかそういう気持ちでは振らないほうがいいです。
もし余計なことが何か分からない時は、次の2つの動画を見てみてください。
③その曲がどういう曲なのかを調べておく
中高の合唱コンクールで歌われる曲には、中高生でも歌えるように作られた曲、大人でも歌うのが難しい曲、ポップスをアレンジした曲など、様々なものが混じっています。
これらの曲を全く同じ方法で分析することは難しいですし、細かな分析を必要としていない曲もたくさんあります。
例えばポップスは合唱曲に編曲されることを想定していないので「このメロディーにはどんな意味があるんだろう…」と考えてもいい結果が得られなかったりします。
ただ、合唱に編曲するにあたって編曲者が込めた意図、例えば「ソプラノ、アルト、テノールの順にメロディーが始まるのはなぜか」ということは読み解くことができるかもしれません。
ポップスが編曲されたものの場合は、基本的にメロディーラインよりは強弱、アクセント、パートの振り分け、ピアノ伴奏の様子など、編曲者が行ったことを分析することになります。
基本的な音楽理論の知識(読み飛ばしてOK)
音の動きについて、ある音が上に進むことを上行、下に進む下行、同じ高さを保つ保留の3種類があります。
ドレミファソ…と隣り合った音に進むことを順次進行、ドミソミ…と間を飛ばして進むことを跳躍進行といいます。
2つのパートが同じ方向に進むことを直行、逆の方向に進むことを反行、片方だけが動くことを斜行といいます。
これらを組み合わせたモノフォニー、ホモフォニー、ポリフォニーの3つで曲を展開していきます。
モノフォニーは1パート、もしくは複数パートが同じ高さで歌うものです。女声と男声では1オクターブ音の高さが違いますが、同じ音で歌っていればモノフォニーとして扱われます。
メロディーラインが1本なので歌詞がはっきり聞こえ、比較的簡素な響きになるので、曲の導入や曲の終わりの部分に使われることが多いです。
ホモフォニーは複数パートが同じリズムで違う高さを歌うものです。リズムが揃っているので歌詞が聞こえやすく、さらに和音の響きが聞こえてくるのでモノフォニーに比べて豪華な響きがします。
ポリフォニーは複数のパートがバラバラに動くものです。和音の響きというよりも各パートの動きが重要視されますが、3パートが同時に動くので耳で追いかけるのはかなり難しいですし、そういう楽譜を作ることもかなり難しいです。
具体的な分析のポイント
大半の合唱曲は、横の動き(メロディー)と縦の重なり(ハーモニー)と歌詞が密接に関わって作られています。
他にも曲の構成、ピアノ伴奏、強弱などの記号などが曲に関わることが多いです。
分析にあたって「もし〜〜でなかったらどうだったか」という仮定をして考えると、作詞家や作曲家の考えたことにより近づけるかもしれません。
最重要ポイントから挙げていくので、自分が指揮を振る曲はどんな感じかノートなどにまとめてみるといいかもしれません。
最重要ポイント
★この曲のタイトルは歌詞のどの部分に出てきますか?
冒頭からいきなり出るでしょうか、それとも曲の後半に出てくるでしょうか。その部分が曲の大事な部分になるはずなので、思いを込めて丁寧に振るといいと思います。
★強弱記号やテンポに関する記号が密集している部分はありませんか?
演奏者に対して作曲家が細かく指示を出しているところは、作曲家にとってこの曲の大事な部分だと考えられます。その部分の歌詞にも何かヒントがあるかもしれません。
★この曲の中で一番印象的な部分はどこでしたか? また、それはなぜですか?
直感はとても大事です。CDやYouTubeで音源を聴いたときに記憶に強く残った部分にも、曲の大切な要素が隠れているかもしれません。
指揮を振るためのポイント
●前奏のピアノ伴奏はどんな雰囲気で始まりますか?
弱く始まる場合は優しく、強く始まる場合は堂々と振ってみるといいかもしれません。自信がない場合は伴奏者にお任せして歌い出しから振ってもいいと思いますし、歌が入るまでは右手だけで振るというのもいいでしょう。
●歌い出しの部分はどの拍から始まりますか?
1拍目で始まる場合はその前の4拍目に息を吸うことになると思います。歌う人と同じタイミングで息を吸うと指揮と歌のタイミングが合いやすくなるはずです。また歌い出しをはっきり指示する場合は、指揮も叩くようにはっきり振りましょう。
●ソプラノ、アルト、男声がバラバラに動く部分(=ポリフォニー)はありますか?
各パートの入るタイミングが異なると途端に歌う人たちの自信が無くなるので、歌い出すタイミングでそのパートとアイコンタクトを取ったり、一緒に息を吸うと歌いやすくなると思います。
●1番や曲の終わりの音はどのくらい伸ばしますか?
伸ばす時は左手で音を支えて、切るタイミングで手を回して切るといいでしょう。
●強弱の幅は適切に振ることができていますか?
大きい部分は比較的問題なく振れると思いますが、小さいところは思っているよりも小さく振ることをお勧めします。対比をつけるためには大きい部分より小さい部分の方が大事です。
●テンポの変化は適切に振ることができていますか?
rit.(だんだん遅く)やaccel.(だんだん速く)は振るのが難しいので、曲中に書かれている場合は伴奏者と合わせて練習してみましょう。
●歌やピアノ伴奏の人がいなくても指揮を振ることができますか?
歌やピアノ伴奏をしっかり覚えておいた方が本番で間違える可能性は低くなります。自分で自分のパートを歌ったり、ピアノパートを鼻歌で歌いながら最後まで指揮を振れるようになると最高です。
歌う人にアドバイスするためのポイント
●曲の中で繰り返されている、似たような部分はありますか?
全く同じ繰り返しの場合は2回目がつまらなくならないように歌いましょう。もし違う部分があるならば、それは聞いている人にも分かるように歌えるよう工夫しましょう。
●曲全体の盛り上がりを感じる部分はありますか?
基本的に音が高く、大きくなる場合が多いです。意図的に演出をするのであれば、盛り上がりの部分では声を大きく、歌詞をはっきりと歌うと良いでしょう。
●テンポが速くなったり遅くなったりする部分はありますか?
もしあれば、遅れないように周りの声を聞きながら歌ってください。
●歌詞に出てくる独特な表現はありますか?
水に関する言葉、生き物に関する言葉など、特徴的な言葉があれば子音をはっきり発音して歌うと聞いている人にも伝わりやすいと思います。
●曲のタイトルに関係する歌詞は現れますか?
もしあれば、それは曲の中で大事な歌詞であることが多いのではっきり歌うといいでしょう。
●歌詞の中に主人公や登場人物はいますか? いるとしたらどのようなストーリーが展開されますか?
頭の中でストーリーを思い浮かべるといいと思います。また、イメージしたストーリーを他の人とも共有できるとより良い歌になると思います。
●歌詞を口に出して読んでみて、イントネーションなどで気をつけた方がいい部分はありますか?
歌は歌詞がよく聞こえることが大事なので、イントネーションとメロディーの音の高さに関係があることがよくあります。国語の授業のように朗読してみると何か発見があるかもしれません。
●歌い出しや各パートの初めの音はどのくらいの高さで始まりますか?
しっかり準備をしておかないと変な声で歌い出す可能性があるので、頭の中で出す高さのイメージをしっかり持っておくことをお勧めします。
●ピアノの伴奏はちゃんと聴けていますか?
CDやYouTubeの伴奏だけを聞いて練習するのではなく、実際の伴奏者が弾いたものを録音して練習をするのも良いと思います。
「こんな内容を扱ってほしい!」というリクエストがありましたら、こちらのフォームから入力していただけたら、ふとした時にまとめるかもしれません。