コラム

【ポケモンZA】ミアレシティ(昼)のBGMが凄すぎたので、作曲家がガチで分析してみた

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皆さん、ポケモンZAはもう遊びましたか?

「Switch 2を持っていないからできない…」と思っている方もいるかもしれませんが、Switch版もあるので今すぐにでも遊べます。ぜひ遊びましょう。

将来Switch2を買った場合でも、アップグレードパスを買えば大丈夫です。ぜひ遊びましょう。

今回のポケモンZAはレジェンズシリーズなので、SVや剣盾とはプレイスタイルが大きく異なります。

ゲームボーイでしか遊んだことがないという方にとっては驚きの連続だと思います。

何より注目したいのは今回の御三家で、チコリータ・ポカブ・ワニノコという、複数世代にまたがる3匹から選ぶことになります(私はチコリータを選びました)。

ストーリーはまだ進めている途中ですが、ジムリーダーを倒していくのではなくランクを上げていくシステムなのも新鮮でした。

さらに、物語がすべてミアレシティ内で進行するという構造も斬新です。マップ移動によってBGMが切り替わらないため、基本的に同じ音楽を聴き続けることになります。

今回のミアレシティのBGMは、聴き続けても疲れず、むしろ落ち着けるようなアレンジになっています。このBGMに心をつかまれた人も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、作曲家としてこの曲を分析しその魅力に迫ってみたいと思います。

ミアレシティのBGMには昼と夜のアレンジがありますが、今回は昼バージョンを取り上げます。

曲について

今作のBGMは、過去作であるポケモンXYに登場した同名の楽曲をもとにアレンジされています。

自転車で街中を駆け回っているような、軽やかで疾走感のある曲ですよね。この曲のキーはE♭メジャーです。

この原曲を元にしつつ、テンポが落ち着き展開がより豊かに作り変えられています

分析

今回の分析では、曲をいくつかのセクションに分けて見ていきます。たとえば 「[A 0:00〜] (8)」 と書いてある場合、

「Aセクションが動画の0:00から始まり、8小節続く」

という意味になります。また単音を示す場合はドレミで、コードを示す場合はC,D,Eなどのアルファベットで表記しています。

[A 0:00~] (8)

この曲は、ゲームをプレイしていると夜明けのタイミングで必ず流れるBGMです。

まさに太陽が昇ってくる瞬間の爽やかな空気感が描かれているように感じます。テンポは128です。

メロディー自体は穏やかな順次進行で構成されていますが、その一方でコードはめまぐるしく変化します。

B♭M7/C→E♭7(9)G♭7B♭M7/CC7(♭9,13)

キーはFメジャーですが、途中にノンダイアトニックコードが挿入されています。特に3つ目の G♭7 は意外性が強く、個人的にも驚かされたポイントです。

オケ部分はピアノ、ストリングス、ホルン、ベース、ドラムといった落ち着いた構成で、ジャズ寄りの響きになっています。

(11/4加筆)ーーーーーーーーーー

上に示したコード進行自体はおおむね合っていたのですが、ヘッドホンでじっくり聴き直してみると、実際にはかなり複雑なトーン・クラスターが鳴っていることが分かりました。

トーン・クラスター(英: tone cluster)
ある音名から別の音名までの全ての音を同時に発する房状和音のことを指す。「密集音塊」とも。(Wikipediaより)

丁寧に聞きとってみたところ、実際には以下のような音が鳴っているように聴こえます(※下の音源ではピアノも合わせています)。

赤字で書いたコード名はテンションを含む一般的な表記ですが、2つ目のコードはそれでは書ききれなかったため、青字でポリコードとして示しています。

なぜ3~4小節目のホルンのメロディーがコードとぶつからないのか不思議でしたが、これでようやく納得できました。クラスターによってぶつかるはずの音が、逆に溶け込むように調整されていた、というわけです。

余談:「クラスターに気付いた理由」(タップすると開きます)

最初に耳コピした段階では1小節目のルートがC、メロディーがシ♭であることからキーはFメジャーだと判断しました。その後、ルートがミ♭→ソ♭と進んでいたので、メジャーコードやドミナントセブンスを連結しているのだろうと考えました。しかし、E♭の小節でホルンがラ♭から始まり、コードの最高音にソがあるので意図的にぶつけているのではと思いました。改めて聴いたところストリングスに複雑な響きがあったので、クラスターに気付いたというわけでした。

[B 0:15~] (8+4)*2+4+2

ここから原曲のメインテーマが演奏されます。メインテーマを演奏する楽器はエリアによって異なるようで、それぞれトランペット(コルネット?)、アコーディオン、フルート、クラリネット、サックスのようです。

楽器によるオケの違いもあり、少なくともクラリネット(ベール地区)とサックス(ジョーヌ地区)のバージョンではドラムが聞こえません。

メロディーはオケのリズムに合わせてスウィングのリズムになっていますが、音価が全体的に長いのであまり目立たないかもしれません。

さらに[A]セクションには登場しなかったギター、マンドリン、ハープ、ビブラフォンもオケに加わり、さらに彩りが増しています。

イントロのような大胆なコード進行は見られず、ここでは落ち着いた形でメインテーマを聴かせる構成になっています。

2回目のメインテーマのあとに登場するベースのラ♭は、かなり意外性のある音に聞こえます。

作曲家視点で考えると、ここで使われる可能性が高い音はファですが、ファだと落ち着きすぎて、レだと少し暗くなってしまうので、余計なニュアンスを出さない音として機能しているのではと感じました。

また、チューブラーベル(のど自慢の鐘)も鳴ることでさらに華やかな雰囲気になります。

最後の4+2小節は2小節追加された形になっていますが、この部分によって次のセクションへの移行が自然に感じられるようにされていると考えられます。

[C 1:11~] (8+6)+4

ここではピアノがメインメロディーを担当し、それまで主旋律を演奏していた楽器はオブリガートに回ります。

低音が抜けたためか、あるいはピアノのアルペジオによる響きのせいか、少しもの寂しい雰囲気が生まれています。冒頭のB♭→B♭m(サブドミナントマイナー)の進行も影響していると考えられます。

その後、オブリガートを担当していた楽器がピアノとユニゾンになり、ベースなどの低音楽器も戻ってきます。

最後の4小節ではD♭E♭のコードを行き来していますが、これらはいずれもダイアトニックコードではありません。

この進行は一部でマリオ進行と呼ばれており、機能的には♭Ⅵと♭Ⅶにあたります。

この2つのコードを行き来したあとにツー・ファイブ(B♭m → E♭)が挿入され、次の転調への準備が行われています。

[B’ 1:45~] (8+8)

ここでは[B]と同じテーマが演奏されますが、転調してA♭メジャーになっています。

このA♭メジャーというキーは、[B]で触れた意外なベース音(ラ♭)と関連している可能性があります。

アレンジも少し変化しており、冒頭ではスウィングせず、行進曲風のリズムが続きます。

また、[B]で追加されていた4小節分のフレーズは、ここでは省略されそのまま前の構成を繰り返しています。

馴染みやすいが飽きにくいと感じるのは、こういう細かい変化があるからかもしれませんね。

セクションが移り変わる前にピアノのグリッサンドが聞こえますが、白鍵ではなく黒鍵でグリッサンドをしています。

E♭のコードにラ♭が重なるのは、[A]セクションのクラスターに関係していると考えてもいいかもしれません。

[D 2:15~] (8+8)

テーマがオクターブ上に向かってこのセクションに入ります。ここはとても魅力的なセクションだと感じました。

コード進行は[C]の冒頭と同じくG♭A♭を行き来しているのですが、このG♭もやはりダイアトニックコードではありません。

これは「マリオ進行」でも使われる♭Ⅶにあたるコードで、イントロでもすでに出ているコードなので自然に聞こえるようにされています。

またベースラインに注目すると、ルートから全音下がる動きが特徴的に使われています。

このミクソリディアン的な音は、ポケモンシリーズのBGMではとても特徴的な音です。ここで初代ポケモンのBGMを聴いてみましょう。

再生箇所のすぐ後、メロディーのソ→シ→レの動きの後にファが現れますが、これがまさにミクソリディアンスケールの音になっています。

コードもGとFを行き来しており、ちょうど[C]の全音下のキーになっています。

ジャズやブルースに見られるベースラインのようでいて、ポケモンシリーズで大事にされている音でもあるわけです。ここにメインテーマが重なってくるのが大変おしゃれです。

次のセクションに移る直前、G♭→C♭→E♭と進行していますが、このC♭が美しいです。[B]で見たA♭と同じ関係性の音です。

[B’’ 2:45~] (8+8)

再びピアノがメインテーマを演奏しますが、控えめに変奏されています。

また、オケはピチカートとウッドベースを主体とした控えめなサウンドから始まります。

ホルンとマンドリンがオブリガートで参加し、ピアノがオクターブでテーマを演奏して次のセクションに移ります。

[E 3:15~] (8)

冒頭のホルンのメロディーですが、何を演奏しているか分かるでしょうか。

コードはAM7なのに一番高い音がGになっています。本来であれば不協和音になるので意図的に置かれた音であることがわかります。

これは上に挙げた初代ポケモンの初代ポケモンのテーマを演奏していると分かります。テーマがよく分からないという方は、カッコ内の音を省いて鳴らしてみてください。

さらに、この部分のコード進行は次のようになっていて、ここで初めてシャープ系のコードが登場します。

AM7→DM7→G→A♭sus4→A♭

前のセクションのキーであるA♭メジャーから半音上に転調したように聞こえますが、GもA♭もダイアトニックコードではありません。このような流れを自然に作るのは、作曲を勉強していてもなかなか難しいところです。

また、初代ポケモンのテーマ2回出てきますが、このコード進行に合わせて少し形が変えられています。

[F 3:30~] (8+6)

このセクションも前と同じくAM7から始まり、シャープ系のキーになっています。

オケはメインテーマを担当していた楽器に加えて、チェレスタ風の音色やストリングスが控えめに鳴っており、この後盛り上がりが来るのでは、と期待感を持たされます。

コード進行は半音の進行が続き安定しませんが、途中でEメジャー(C♯マイナー)に転調していたことが分かります。

そして最後にF♯m7/B→B7という進行でクレッシェンドし、次のセクションへとつながります。

[G 3:56~] (8)

前のセクションのメロディーの終わり(つまりこのセクションの最初の音)は主音であるEになっていますが、コードがFM7/Gになっているのでどの調に転調したかが分かりにくくなっています。

その後、コードがおしゃれに並行移動し、最終的にC7(♭9,13)を経由して再び[B]セクションへ戻ります。ここから先はループする構造になっています。

またベースラインは[D]セクションと同様の動きをしており、モチーフが丁寧に繰り返されていることが分かります。

まとめ

全体を通して、おしゃれでありながらメインテーマやそれまでに出た要素を繰り返し使っているところにアレンジャーの高い技量を感じました。

アレンジは色々と難しいんですが、この曲は原曲がありながらもこれ自体も原曲として成立しているという強さを持っているように感じました。

まだ聞き込みが足りず、分析が浅い部分やコードのテンションに誤りがあるかもしれませんが、今後ストーリーを進めながら少しずつ加筆していきたいと思います。

そして余談ですが、私のSwitch2は12/20までに届くらしいので、皆さんも予約してより良い環境でポケモンZAを楽しみましょう!

ABOUT ME
吉田卓矢
吉田卓矢
作曲家
福島県小野町出身。福島大学人文社会学群人間発達文化学類スポーツ・芸術創造専攻音楽科作曲専攻を卒業、東京学芸大学教育学研究科音楽教育専攻を修了。これまでに小学校の音楽科非常勤講師を7年間務め、現在はフリーランスの作曲家。専門はMaxやシンセサイザーを用いた電子音響音楽の作曲。
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