楽器の演奏というのは大変なもので、ただ音を出せばいいわけではありません。
特にクラシックの楽器はシビアです。音量を猛烈にあげたり、エフェクトをかけてごまかすことはできませんから、1音1音のニュアンスを細かく詰めていく必要があります。
ちなみに、譜面にある音をただ追いかけて何となく音を出すのは「音楽」ではなくて、ただの音でしかありません。
ここで大切になるのが楽器の演奏法で、これは音を有機的に繋げて音楽にするための技術です。全ての音をさらっておくのは大前提です。
さて、例えば次の楽譜「エリーゼのために」をどのように演奏しましょうか。何となく弾ける人はいると思いますが、それを有機的な音楽にできる人はあまり多くないと思います。
- Poco motoとはどのくらいのテンポでしょうか。
- 1ページ目全体がppとしか書かれていませんが、どのくらいの音量で演奏すべきでしょうか。
- メロディーはなめらかに弾くべきでしょうか。それとも短い音ではっきりと弾いた方がいいでしょうか。
- ペダルはどのように踏むべきでしょうか。
- リピートで繰り返した後は何か変えるべきでしょうか。
- 4段目の途中から明るい長に転調しますが、ここでも何か変えるべきでしょうか。
挙げ出したらキリがないですが、こういう細かなことを楽譜から読み解いて、自分なりの正解を見つけ出すことがとても大切です。
まさに、演奏のための楽曲分析を行う必要があるんです。
こういう演奏法はレッスンで直接教えてもらうことができますが、その秘伝のタレのようなものがまとまっている日本語の本は多くありません。
僕自身、大学で指揮法を習っていた時はとても困りました。一見簡単に見える指揮ですが、演奏家の誰よりも演奏する曲を勉強して、細かな部分まできちんと読み解いておかなくてはいけません。
さらに、上に書いたような疑問点を全て説明できる状態にして、演奏家に「ここはこういう風に演奏してほしい」と要求していくことになります。
言葉で要求することもあれば、指揮棒の振り方で要求することもあります。つまり、事前準備を相当しておく必要がある訳です。
でも僕自身がそんなことを考えて演奏してきた訳ではないので、正直どのように準備をすべきかなんて、分からなかったんです。
なので僕が教わっていた、指揮の本多先生にはものすごく特訓をしてもらいました。
例えば、無音の部屋で指揮を振っていました。指揮法のレッスンとなればピアノを弾いて、僕の指揮に合わせてくれる演奏家もいたかもしれませんが、単なる訓練だったので、頭の中で曲を流して指揮を振っていました。
たまに指揮を止められると、なぜその腕の振り方をしたのか説明しなくてはなりません。つまり、なぜその演奏を要求するのかも説明しなくてはなりません。
この辺りの音楽的センスを磨いていくために、一緒に楽曲分析をしてもらったり、先生が普段要求している演奏法を教えてもらったりしました。
もちろん、先生に教えてもらうだけで大きく成長することはできませんから、独学で少しでも身に着けるために紹介してもらったのが「楽譜を読むチカラ」という本でした。
「エリーゼのために」の楽譜の下にいくつかの項目を挙げましたが、あのような疑問に明確に答えるための考え方がたくさん書かれています。
もちろん、感覚的な表現が多いので、前に誰かのレッスンについていたり、指導してもらった経験がないと理解するのは難しいかもしれません。
僕もいまだに読み返しているんですが、クラシック音楽を演奏している人にはもうとにかくオススメしたい一冊です。
ちなみに、翻訳している久保田慶一先生は、僕の通っていた東京学芸大学の教授でもありました。この他にもめちゃくちゃいい本がたくさんあるので、またご紹介しますね。
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