コラム

ラヴェルのピアノ協奏曲の第二楽章が美しすぎる

皆さんは「世界で一番美しい曲は何か?」と聞かれたらどの曲を挙げるでしょうか。

私は日頃から自分が作曲家だと言って回っているので、好きな曲、嫌いな曲、苦手な曲など、決めるのが少し難しい質問をされることが多いです。

ただ、私が一番美しいと思う曲はもう決まっています。ラヴェルの「ピアノ協奏曲」の第二楽章です。

作曲家と曲について

ラヴェルはフランスの作曲家で、有名な曲に「ボレロ」や「亡き王女のためのパヴァーヌなどがあります。

ドビュッシーと合わせて印象派の作曲家と言われており、拍子感が薄かったり、テンションを含んだ和声などが特徴です。

特にラヴェルの曲ではペンタトニックスケールが多く使われており、民謡のような響きを持つ曲も多くあります。

オーケストラの扱いもとても上手で、スイスの時計職人と言われているほどです。

このピアノ協奏曲は三楽章構成で、ジャズの要素が取り入れられていたり、ムチが楽器として使われていたりして、それまでの協奏曲とは違う要素を数多く持っています。

二楽章の魅力

緩徐楽章、落ち着いた曲です。ピアノソロで始まりますが、協奏曲(=オーケストラの走者がいる)であるにも関わらず1分半にわたってソロが続きます。

クリックすると二楽章から再生が始まります。

楽譜を見ると3/4で書かれていますが、低音のタイミングから6/8のようにも聞こえます。imslpからPDFをダウンロードできます。

この1ページだけを見ても、単なるピアノソロの曲とは違った、ラヴェルならではの良さが見られます。

例えば2小節目を見ると、Eのコード上にAの音が出てきます。アヴォイドノートと呼ばれる音ですが、古典的な曲では極力避けられた音です。それが2拍にわたって伸ばされています。

その後も半音でぶつかる箇所が頻繁に出てきますが、良いスパイスとして機能しています。

他にも、低音の動きやメロディーラインに規則性がなく、たゆたうように曲が進んでいくというのも魅力だと思います。

そして本当に美しい部分はこの後に出てきます。次の画像は2ページ目の楽譜です。

弦楽器がフェードインするように参加し、和声を強化します。

その和声の上にフルート、オーボエ、クラリネットが乗ってメロディーを演奏するのですが、再び現れるフルートが最高音まで上っていくこの部分がたまらなく美しいです。

上の画像の3小節目、和音は下からF,H,Dis,Gisとなっています(トリスタン和音と音程だけでなく配置も同じ)。

これにフルートのAisの音が乗るのですが、音楽的には頂点なのに他の曲に見られるクライマックス感とは違う、何とも言えないもどかしい感じに心を惹かれます。

その後は、A#sus4-A#m-D#と進行し、♯9つのDis-dur(嬰ニ長調)に解決します。

惜しむらくはこの美しい部分が曲全体を通して1度しか出てこないということなんですが、これは1回きりだというのが逆にいいのかもしれません。

続く三楽章では、二楽章の雰囲気とはうって変わって賑やかな曲調になっています。途中でゴジラの曲のような旋律も出てきます(が、作曲者の伊福部昭がこれを参考に作ったのかは正直分かりません)。

まとめ

私も作曲家として長いこと曲を作っていて「自分ならこの曲を超えられるかも」みたいに思うことはあるのですが、この曲については完敗です。

ここまで美しく、構造や理論に気を取られず楽しめる曲を他に知りません。この曲を聴けるなら、まだ生きていてもいいなと思えるほどです。

皆さんの美しいと思う曲にもこの曲がランクインしたら(作曲者本人ではないですけど)嬉しい限りです。

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